column 2021.5.19
 

シリーズ・鎌倉R不動産が考える“鎌倉らしい風景とは”(坂ノ下古民家)【1】

小松 啓(鎌倉R不動産)
 

鎌倉市坂ノ下の古い一軒家を改装しながら、「鎌倉らしさとは何か?」について考える連載、始めます。

今回の計画は鎌倉市坂ノ下の民家。まずは縁側から妄想を膨らませつつ、庭を見る。

常日頃から頭の中にぼんやりとしたイメージはあるが、一言で表すのが難しいと感じている「鎌倉らしさ」について改めて真正面から考えてみたい。そう思うきっかけになったのが鎌倉市坂ノ下の一軒家との出会いでした。

物件の前面の通りは狭い。石と砂利の道、そしてその先に海がある。

事の発端は、かねてより懇意にさせてもらっている方からの紹介で、この家についてのご相談をいただいたことでした。物件を所有しているご家族の意向としては、「母が大切にしてきたこの家をできればいい形で残したい。しかしながら自分たちで管理していくのは限界があり、良い引き継ぎ方はできないか」というものでした。そんなご縁から、鎌倉R不動産がこの家を改装して運用させていただくこととなりました。

外構は板張がいい感じである一方で、後付けのアルミの感じが気になる。

庭にもアルミの目隠し? 気になる。

家族団欒が想像できる四畳半。

既存の和室は建具がまだ正しい位置に収まっていない。

オーナーから話を伺っていくにつれ、この家の歴史は古く、いろんな変遷があったことがわかってきました。先代がこの土地を取得したのは明治30年代半ば。そこから建物はいくつもの変化をし、建替えまたは増改築が繰り返されてきたそうです。坂ノ下は海の近くの町ですが、ご家族によれば、昔は夏の時期は建物の半分を貸しに出していたこともあったとのことで、当時の坂ノ下の賑わいが想像されます。

またもともと漁師町でもあるこのエリアでは、車も通れない細い道をはさんで所狭しと小さな民家が立ち並び、さらには舗装されていない砂利道が今も残っています。現在ではこの風景にむしろ趣きを覚える人が増え、多くの観光客が狭い道を行き来しています。ドラマの舞台にもなった古民家カフェを筆頭にレトロな味わいの飲食店や民泊施設が散在し、古くからの老舗の和菓子屋さんや江ノ電の線路をまたいで境内に入る神社などもあります。

御霊神社へは江ノ電の線路を渡って境内へ。

歩いて2分でこの景色という海辺の町なのです。

もっとも、相談を受けたこの家に関して言えば、雨風の対策などが必要だったからだと思いますが、度重なるリフォームや外構工事が行われた結果、開放的な趣きが損なわれ、また無秩序な意匠になっているように感じられました。安全安心な暮らしを考えれば必要な補修の結果ではあるものの、今のこの坂ノ下エリアの雰囲気からすると、置いていかれているような様子で、少し手を加えることで、もっとこのエリアらしい風景を描けるのではないかと感じたのです。

全体を見ると素敵だが、よく見るとカーテンレールや電気配線が気になったりもする。

障子の向こうの風景は古き良き鎌倉風情。一方でキッチンはつぎはぎ祭り。

いや、ここでいう「加える」という言葉もちょっと違う気がするのです。「鎌倉らしい風景」を考える上ではむしろ取り払った方がいい建材もあるのではないか。それらを選び出し、別の建材に置き換えることで、風景を整える。それは建物内部にも当てはまることで、基本的にはこの家は素敵です。ただ細部を見ていくと、必要だからと後から取り付けられた諸々が積み重なっています。それらをいったん外してみてはどうだろうか。

そんなことを考え始めると、これは私にとって「鎌倉らしさ」を改めて整理する良い機会になるのではないか。この家はそんなきっかけを私に与えてくれたんだ!との思いが強くなってきて、この度、小松が思う鎌倉らしさをこの家で表現してみようという計画に至ったのです。

ということで、 実際に物件を改装し、手を動かしながら、“鎌倉らしい風景”を追求していく連載をスタートすることにします。

次回は、「解体から得られる気づきについて」をお送りします。お楽しみに。

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