2021.7.26 |
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シリーズ・鎌倉R不動産が考える“鎌倉らしい風景とは”【3】 「鎌倉らしさとは何か」
鎌倉市坂ノ下の古い一軒家を改装しながら、「鎌倉らしさとは何か?」について考える連載の第3回。
[0]ついに辿り着いた「鎌倉らしい」外構|通りのあじさいが歓迎してくれました!
前回まで、徹底的に排除するべきものを取り外しましたので、いよいよ今回はそこに加えるものについて考えていきます。
私が鎌倉に移住してきた10年ほど前、このエリアについて学ぼうと、鎌倉・湘南エリアについての雑誌のバックナンバーを買い漁り、図書館に通い、小さな個展に出掛け、飲み屋でおっちゃんからのお話をこんこんと聞かされ、喫煙所で盗み聞きを繰り返しましたが、それでも答えを知ることはできませんでした。
そこで得た気付きは道草から鎌倉らしい風景を読み解くこと。私はこれまで10年間、鎌倉のあらゆる道を歩いてきました。もちろんそれは物件探しの一環ですから、街を見回しては「これが物件だったらいいのにな」とか思いながら歩き回っています。
その記憶を整理しながら、あらためて街を歩きまわり、これまで撮りためた写真を見返しているうちに、ひとつの答えが見えてきました。
私が道草からから感じ得た発見は、このふたつの組み合わせが、鎌倉らしい風景をつくっているのではないだろうかというものです。これは一体どういうことか、解説していきます。
鎌倉らしい風景をつくる要素は海や山、そしてあじさいや紅葉、夕陽など自然に関係することが多い印象ですが、人工物においても、こうした自然の風景を引き立てる工夫があるのです。それはあまり強い主張はせずに、上品に外に向けた配慮をすることや内と外との中間領域をつくることで表現されています。
これらは住宅の外構に多く見受けられます。例えば写真[1]を見ていくと、上段は特に外に対して見せるというよりも「魅せる」外構。どれも家の中からではなく、外を通る方への意匠として計画されている。
内と外との中間領域については、垣根が語源とも言われる「垣間見る」効果を狙った外構が鎌倉の魅力を生み出しています。とりわけ写真[2]の右2枚は代表的な「大和塀」と言われる外構です。湾曲した通り沿いを歩いてみると、ちらりと庭の緑が目に入り、さぞかし素敵な庭なのであろうと内部の様子を想像してしまいます。こうした外への美意識を持った外構が、鎌倉の街歩きの楽しみを演出しています。
続いて写真[1]下段、こちらは身近な自然素材が使われている事例です。左の外構は下部の石は鎌倉石と言われるこの地域の石材が使われているようです。水を吸い苔が生えるなど、風化する速度が速いので自然に馴染みやすい素材です。また竹寺として観光名所にもなっている報国寺がある鎌倉では、竹林がたくさんあり、春になればあちこちで筍を掘っている光景をたくさん目にします。
[3]メンテナンスの事例|身近な素材では部分補修直後の様子、今後の風化が楽しみ
こうした身近な自然素材を使うことは単純に良いことだと感じますが、それだけではありません。真のメリットはメンテナンスにあります。地元の石材屋や植木屋など外構関係の業者さんに面倒を見てもらうのも鎌倉らしさであり、職人の仕事を絶やさない意味でも朽ちていく自然素材を使うことは有意義なことではないでしょうか。また竹林も放っておいては竹が密集して不健康な竹林になってしまうので、細かな間伐が必要です。つまり交換部材が入手しやすい材料であり、その材料が間伐材であるならば一石二鳥なのです。実にサステナブル!
[4]人がつなぐ風景|手前の外構を奥に新築した方が習うという鎌倉らしい連鎖
そして最後に外への美意識が生んだ街の景観についての好例を。鎌倉のとある住宅街にある家の外構は、とても丁寧に作られ、メンテナンスも行き届いていました。そこへ近所に新築を建てた方が、この外構を見て感銘を受け、住人の方に外構関係の業者さんを訪ね、自らの家の外構にも同じ職人さんにお願いされたという話があります。写真[4]は手前がオリジナルで奥が2作目となり、古くからのうねりのある道に沿って続く外構が、通りとしての景観に奥行きを与えているのです。
[5]近隣の連鎖が生んだ外構(右がオリジナル)|これに気がつくと鎌倉は素敵で仕方がない
人と自然、それぞれがバランスよく循環するデザインとなっている。こうした鎌倉の個々の家の外構が、鎌倉らしい風景をつくっている。人と人も相手への気遣いや美意識を持って接すること、そしてメンテナンス(関係)を続けていくことが大切であり、それを絶やさないことが魅力なのです。
こうして今回の坂ノ下の物件では、既存の新建材であったアルミフェンスを入れ替えることで、鎌倉らしさを表現してみました。
[6]外構|板と竹を組み合わせ、隙間から内部の様子を垣間見ることができる
鎌倉らしさとは、外への美意識と身近な自然素材で作られる。この発想から生まれた外構は、まず外への美意識として、通りからは見ようと思えば見える程度にスリットを調整しました。高くなりすぎないように、全体の高さも抑えてヒューマンスケールを意識。トップの笠木は通りへの配慮を考え、内側に勾配をとりました。これで雨水が道路側にぼたぼた垂れませんし、見た目にもキリっとした印象を狙いました。
古民家カフェや飲食店、民泊施設なども混在している最近の坂ノ下エリアにおいて、少し大人っぽさと落ち着きを作り出したいと考えていました。キリッとした見た目もそれを意識しています。そこで素材については檜の板張りに黒竹のスリットの外構としました。もちろん素材は交換可能な身近な自然素材です。後は少し時間が経てば、色味も落ち着いてくれると思っています。
建物内部の縁側からは、海の街を感じる風がこのスリットからも心地よく感じられそうです。写真[8]の左から2枚目を凝視してもらうと分かるかもしれませんが、この物件は縁側から海が見えるのです。
[9]庭から建物縁側と外構の関係|程良い中間領域が生まれた
こうしてできた外構、ここでしっかり鎌倉らしさを語れたところで、後は内部のお楽しみを。次回、デザインコードに従って出来た、新建材との戦いから生まれた小技が連発した白熱の内装工事編をお送りしたいと思います。
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