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column 2011.7.25
 
稲村ヶ崎R事情
葉山に出現!? オフィスの庭にピザ窯をつくった男
杉浦貴美子
 

今回の稲村ヶ崎R事情は、葉山の海近&山近の賃貸物件から。
平屋をこよなく愛し、自宅兼オフィスの庭にピザ窯をつくった前田さん。人が集まることを前提とした暮らし方をご紹介します。

光を透過する明るい屋根付きテラスが家の中心に。右の仕事部屋にも、左奥のリビングにも、そして庭にも直接アクセスできる。

火吹竹でピザ窯の火をおこす前田さん。庭中央には耐火レンガを積んだバーベキュー窯も常設されている。

平屋に住みたい

葉山町堀内。三浦半島付け根の西側に位置し、海岸からは江ノ島や、晴れた日には富士山までもが見える。そして海に背を向けると、目の前にはこんもりとした山々が連なる。七里ヶ浜や鵜沼に比べて波も穏やか、低層の住宅が並び、のんびりとした時が流れるエリアだ。

この地に建物面積75平米、敷地面積250平米、築38年の平屋一戸建がある。南向きに開けた庭を持ち、なんと海と山の両方が徒歩圏内という贅沢な立地。元は住居ではなく保育園、たくさんの子供たちが集まる場所だった。

2年半前、前田博隆さんは白金台からこの家に越してきた。引越しにあたって前田さんが希望したのは「平屋」。ちょうど探し始めた頃、庭に木々がもさもさと繁る古い平屋に住む友人宅を訪れ、土とつながっている感覚にとピンときた。そこでエリアや間取りにこだわらず平屋に絞って探すこと4ヶ月、この家に出会った。
物件の知らせを受け心躍った前田さんは、すぐに予定を調整し翌日には現地に。

「希望通りすぎる条件に、そんな家が本当に存在するの? と半信半疑でした。行ってみたら、家にはちゃんと屋根もあった。壁もあった。それを確認できただけでもう充分。」と、なんの躊躇もなくその場で申込みを。 念願の平屋生活をスタートさせた。

左:平屋ならではのスケール感。空が広い。右上:窓が多く解放的な仕事部屋。 右下・左:キッチンからリビングをのぞむ。部屋の仕切りを取り払い、2つの部屋を1つにつなげ、空間を広く使った。奥に見えるのは庭。 右下・右:テラスでちょっとした仕事をすることも。

屋根付きテラスのポテンシャル

前田さんが最も気に入っている場所は屋根付きのテラス。土地柄、保育園の次の借り手として、米軍基地関係者の住居を想定して改装が加えられたようで、このテラスもその際に作られたもの。賃貸では珍しい空間だ。賃貸時の図面にはバーベキュー用と書かれていたが、用途はもっとずっと幅広い。

例えば、ここで魚を捌いたり、DIY工作をしたりなど、室内でやるにはちょっと豪快な作業も気にならずにできてしまう。思えば、昔の家にあった「土間」のような外でも内でもないマルチな空間の存在は、自分の手でできることの可能性を広げるのに一役買っていた。この空間のポテンシャルに気付いてしまったらもう戻れない。前田さんはもし次に引越す時があっても、この居心地のよいテラス空間なしの生活はもう考えられないそうだ。

忘れられないピザの味、再現計画

葉山への移住と同じ頃、前田さんは仕事で沖縄の自給自足村「ビーチロックビレッジ」を訪れる機会があり、そこで食べたピザに衝撃を受けた。そのピザは、採れたての野菜を具材にし、手づくりの窯で焼かれたシンプルなものだったが、今まで食べたどのピザよりもはるかに美味しかったのだ。その味が忘れられず、再度プライベートで訪問し、自宅の庭にピザ窯を作ることを決意。しかもビーチロックビレッジのメンバーが制作のために来てくれる(!)という約束も取り付けた。そして沖縄をはじめ全国各地から20人ものメンバーが一週間ほど前田さん宅に寝泊まりし、手づくりのピザ窯と小屋が完成した。

マルゲリータを窯入れ中。壁に貼ってある紙「火力の弱さは、心の弱さ。生地の歪みは、心の歪み。眼鏡の曇りは、心の曇り。」は、友人に書いてもらったピザ訓。

引越し当初から庭に小さな畑をつくり、野菜を育てる楽しみを覚えはじめていた前田さん。忘れられないあのピザの味を再現する計画には、自分でつくった野菜をその場で収穫しトッピングすることも入れていた。野菜づくりもはじめは試行錯誤の日々だったが、今ではトマト、ピーマン、なす、バジル、キュウリ、とうもろこしなど、さまざまな野菜たちが立派に成長するまでになった。

手づくり窯に新鮮な野菜、前田さんを虜にしたピザの条件はこれでそろった。この窯で焼かれるピザが美味しくない訳がない!
400度の高温、そして2分足らずの短時間で焼かれたピザは、外はカリッ、中はもっちりしつつも軽い食感。トッピングされた野菜の味もぎゅっと濃い。友人にも大好評で、みんなこのピザを食べに遠くからも度々訪れるそうだ。

左上:イースト菌を発酵中。生地は8時間ほど寝かせる。 右上:マルゲリータ。 左下:ジェノベーゼ。摘んだばかりのバジルを松の実と一緒にミキサーで砕いてトッピング。 右下:きのことベーコン。どのピザも唸るほどの美味しさ!

左:つやつやピカピカ。前田さんが手塩にかけた採れたての野菜たち。 右:庭の畑。野菜づくりにもすっかりはまっている。今ではもっと大きい畑が欲しいそう。

とはいうものの前田さん、最近スランプに陥っているよう。ピザは粉の調整から温度、湿度、水質、イースト菌の発酵具合に至るまで毎回が実験。前に完璧だと思っていたレシピがまったくうまくいかないことも。

「ピザ道は険しく長い。いったん山を登り切ったと思ったら、今まで気付かなかった道が見えてきたんです。まだまだ先は遠いです。はやく安定したクオリティで作れるようになりたい。」

最近ではピザ教室の講師も頼まれているとのことで、すっかりピザの世界にはまりこんでいる。前田さん、この先どこまで行ってしまうのか!?

ピザ窯&小屋の建設中風景。窯の設置には大家さんの了承も得ている。

極上の打ち上げハウス

前田さんは、長く映像制作会社でCMプロデューサーとして働いたのち独立。2年前の七夕に「株式会社 前田屋」をここ葉山の家を本店として設立した。

会社員時代は忙しすぎて家に帰れないことも多く、できるだけ仕事場から近い場所に住み、寝る時間をなんとか確保する、という生活を送ってきた。目黒に4年、白金台に4年住み、このまま都内でマンションを移り住んでも先が見えてしまうような気がした。そこで独立を機に都外へ移住することを決意。ただ、これからも週に3、4回は通うことになる都内へのアクセスのしやすさも確保したい、それが湘南での暮らしを考えたきっかけだった。

移住を決めた葉山エリアは、電車の最寄りが逗子駅、そこからはバスや車を使うしかなく、都内への通勤を考えるとかなりのタフさが要求される。鎌倉や茅ヶ崎に比べて、一つハードルが上がるエリアだ。ただ前田さんは迷わず選択し、そのハードルをひょいっと乗り越えた。
「通うのが大変になったからこそ、都内では前より集中して、メリハリのある仕事ができるようになった。乗換えが少なくまとまった時間が取れるので、電車内での仕事も思った以上にはかどっています。」
そして乗り越えた先に、豊かな自然がありユニークに住みこなす猛者がたくさんいる場所、葉山での暮らしを手に入れた。

200インチのスクリーンをテラスの壁に吊るしプロジェクターで投影。写っているのは前田さんが手掛けた「WORLD ORDER」のPV。この映像かなりびっくりします、お薦め!(youtubeで視聴可能

前田さんが手掛けるミュージックビデオやCMなどの映像制作はたくさんの人が関わる。時には家が編集スタジオ兼合宿所になることも。締切に追われると連日徹夜で、肉体的にも精神的にもギリギリなレベルでの制作となる。まさに身を粉にするような状態で、且つ、全力で楽しみながら前田さんは仕事をする。だからこそ、プライベートと仕事の境目をつくらない方法で、でも切り替えのできる空間はどうあるべきだろうかと考えた。その結果がこの自然の中での暮らしや打ち上げにあらわれている。

プロジェクト毎の打ち上げは必ずこの葉山の家兼オフィスで行う。スタッフも家族みんなで参加するため30人ほど集まることも。打ち上げの定番コースは、まず庭でピザを焼き、バーベキューを始める。仕込んでおいた燻製とワインをお供に、沈む夕日を見にみんなで海まで歩く。日が暮れたら海から戻り、デザートの焼きリンゴをつくる。そして宴もたけなわになった頃に今回のプロジェクトで制作した映像をスクリーンに映す。みんなで苦楽をともにしたからこそ、最高に盛り上がる瞬間だ。

都内でどんな場所を貸し切りにしてもこの気持ちは味わえない。この場所だからこそ、全力で遊ぶ楽しさも自然の恵みも、みんなで一緒に味わえるのだろう。

左上:打ち上げに集まる仲間たち。 左下:ダッチオーブンでつくる鶏の丸焼き。 右:ピザ窯の中のマルゲリータ。打ち上げでも大人気。

一人暮らしではなく、みんな暮らし

近所の人とは通りがかりに気軽に挨拶を交わす。垣根越しに隣の奥さんが獲れたばかりのイカをお裾分けしてくれたこともあった。長く留守にするときは畑の水やりをしてもらうことも。お返しにピザを焼いて差し入れたりなどしてゆるやかな近所づきあいが生まれている。
また前田さんが越してきた後に、移住してきた友人も何人かいる。越してから知り合った都内からの移住者とも仲良くなり、連鎖的に輪がどんどん広がっている。

訪れるみんなに「実家みたい」と言われる居心地の良い家兼オフィス。集まることを前提に、けれども一人の時も人がいる時も、前田さんはその両方をまったく隔てることなく楽しんで暮らしている。そう、前田さんには垣根がないのだ。だからこそ、保育園だったときと同じように、またたくさんの人がこの場所に集まる。この家に前田さんが惹かれたのも偶然ではないのかも知れない。

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